鉄欠乏性貧血治療のポイント

鉄欠乏性貧血について質問がありました。
ご本人の承諾がありましたので掲載いたします。2015年9月

------ Forwarded Message
From: Tanaka Yoko<tekitou@usomail.ne.jp>
Date: Fri, 25 Sep 2015 22:42:08 +0900
To: <mfukuda@mfukuda.com>
Subject: 貧血の鑑別 治療について

福田先生、初めてメールさせていただきます。
私はH県にて診療所勤務している田中(仮名)といいます。

先生のHPを拝見し、大変丁寧にみなさんの質問に対して返答されているのを拝見し、自分の診療で疑問になっている方の事を
質問させていただければと思い、メールさせていただきました。

症例は64歳女性で、他院にて高血圧などの加療をされている方です。
その方が定期で検査を行われ貧血を指摘され当院へ来られました。
検査は8月中旬ごろにされていて、その際、Hb6.6と低下、MCVの低下もあり(すみません、数値を記録しておりません)血清鉄が9と低下していたため
9月再診された際、鉄欠乏貧血だから近くの医療機関受診して調べてもらうように言われた様です。
またその時、鉄を補充しようと鉄剤の静注をされたようです。

当院へは9/18に受診されその際、血液検査したところRBC390万、Hb8.0 Ht25.7 MCV65.9と小球性貧血がありました。
同時にWBCは6300だったのですがPlat 52.8万と上昇しておりました。この血小板数は前医でも50万でした。
18日の当院の結果で血清鉄は24μと低下、しかしフェリチンは13.5となっておりました。(前医ではフェリチンは測定されていません)

当院での消化管の精査は不可能なため本日近くの病院でGFを施行していただいたところ、胃潰瘍瘢痕が多発し出血はなく、そのための貧血ではないかとの
返事があり、更に本人が鉄剤内服拒否され静注することを勧められ、本日再診されました。(基本的に鉄補充は内服と考えていますが…)

今回疑問があるのは
@ 本来鉄欠乏として考えるべきはフェリチンの低下(12以下)があるべきだがこの症例フェリチン13とやや上昇しており鉄欠乏として扱ってよいか

A 血小板の増加は二次性貧血、慢性炎症性として考えた方がよいのか。それとも胃潰瘍があったため血小板数もあがったのか。


二次性等を考えてさらなる精査がいるのか

B 治療効果を見るのに鉄剤静注どれくらいで行ったらよいか(今回のケースだと、鉄補充は1回2Aずつで21回程度になりそうです)

そもそも鉄剤の静注は週何回ぐらいが妥当か (現在自分は大体週2回くらい、来れるときにと説明はしています。)

先生の書かれている内容からは月1から2回とのことでしたがそれくらいの方がよいのでしょうか



今日、この結果をもってこられたため体重を測定しておいて本日は鉄剤(フェジン1A)を静注しております。

もし可能であれば、上記質問についてご教示いただければありがたく思います。
 お忙しいところすみません。  
      田中


田中様 おはようございます。
ご質問の内容について以下のごとくにご返事いたします。


今回疑問があるのは
@ 本来鉄欠乏として考えるべきはフェリチンの低下(12以下)があるべきだがこの症例フェリチン13とやや上昇しており鉄欠乏として扱ってよいか

フェリチンの低下は明らかです。したがって、典型的鉄欠乏性貧血としていいと思います。
 フェリチンの正常値の決め方が問題あります。一般的に月経を伴う女性、出産経験者は貧血がなくとも潜在的鉄欠乏状態にあります。この年代の検診とかのサンプルが集められ、貧血がないから正常人として正常値が計算されています。従って成書にあるフェリチン値は潜在的鉄欠乏者の値と考えて良いのです。ちなみに閉経した方々のフェリチン値は多くは50マイクロ以上です。
 なお、経口材の場合は別ですが静注療法後にはフェリチンは急上昇し、判断には参考になりません。


A 血小板の増加は二次性貧血、慢性炎症性として考えた方がよいのか。それとも胃潰瘍があったため血小板数もあがったのか。
二次性等を考えてさらなる精査がいるのか。

鉄欠乏性貧血の病態の一つとして血小板数増多を伴います。
  失血の際に血小板が上昇しますが、このときは鉄欠は必ずしも生じておらず、この血小板増多は機序が異なります。失血に対する防御としての生体側の反応と思われます。これ以上の精査は不要です。もし、鉄欠乏状態から脱した状態で血小板増多が続いていれば精査も考えますが通常そのようなことはありません。


B 治療効果を見るのに鉄剤静注どれくらいで行ったらよいか(今回のケースだと、鉄補充は1回2Aずつで21回程度になりそうです)そもそも鉄剤の静注は週何回ぐらいが妥当か (現在自分は大体週2回くらい、来れるときにと説明はしています。)
先生の書かれている内容からは月1から2回とのことでしたがそれくらいの方がよいのでしょうか

MCV低下等を伴う典型的鉄欠乏性貧血として診断できる時点で貯蔵鉄欠乏は2000mg以上と推定されます。計算式等は不要です。投与後2?3週間して血色素値を見て上昇していれば治療的診断になります。
 投与間隔は患者さんの通院の頻度によって連日でも隔日でも、週1回でも問題ありません。仕事とかで来れない方は月1から2回でも良いのです。欠乏に対する補充ですので総投与量が問題ですが、間隔は患者さんの都合で決めて良いと思います。

今日、この結果をもってこられたため体重を測定しておいて本日は鉄剤(フェジン1A)を静注しております。
大人であれば体重、血色素量による投与量の差は些少な問題で、考慮不要です。毎回フェジン1Aでは通院が大変でしょう。2Aでもゆっくり静注していただければ可能です。私は通常3A/100mlとして全開落下、または15分ほどかけて点滴にしています。
基本は経口投与です。一般的に1日鉄剤1錠で十分です。これ以上にしますと、効果は1錠と大差ないのに副作用で服用できなくなる方が増えてきます。


もし可能であれば、上記質問についてご教示いただければありがたく思います。
 お忙しいところすみません。 

上記のごとくお答えいたします。ご丁寧な記載いただきありがとうございました。
間もなく引退するような老医の、30年ほど前の文献ですがお読みいただいてありがとうございます。なお、今でも時折ご質問をいただきます。先生のも個人を特定できない状態でネットに掲載させていただいてよろしいでしょうか?

                                           秋田県   福田


福田先生、早速のメールいただきありがとうございます。

大変明快なお答えをいただき、本当にありがとうございます。
一人での診療で、こんなこと聞いていいのかと恥ずかしながら質問してしまいました。

今後先生にご教示いただいたことをもとに加療したいと思います。
一応、これまでの経緯で投与10回目くらいで血液検査をしてみることにしました
(自分が勤務するまでそこでされていた先生のやり方でそのようにされていたみたいです。)
ちなみに患者様は週2回ずつくらいで来れるようです。

どうしても教科書の内容とちがっていると不安になってしまいどなたに相談するべきかなやんでおりました。

また今回の内容、ネットに掲載していただいても結構です。
これがまたどなたかの役に立てるとうれしいです。
 
本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

    H県 田中陽子(仮名)





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